フェルミ推定と分析的実証手続

(※)以前公開したブログを再公開したものです。

 

フェルミ推定と分析的実証手続

 

 

「フェルミ推定」とは、「日本に電柱は何本あるか?」「シカゴにピアノの調律師は何人いるか?」といった調査しないとわからない数量を、いくつかのより身近な知識と前提条件をもとに論理的に推定することを言います。

1938年にノーベル物理学賞を受賞したエンリコ・フェルミが得意としていたのでこの名がつきました。ちなみに、外資系企業やコンサルティング会社では、採用面接時に「フェルミ推定」を用いた問題がよく出題されるそうです。

コンサルタントの細谷功さんが書いた以下の書籍が「フェルミ推定」を詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。

地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」

実は、公認会計士が行う監査手続にも、この「フェルミ推定」によく似た「分析的実証手続」という手続があります。

貸借対照表や損益計算書の科目(現金、売上高など)の金額が正しいかどうかは、契約書や請求書などと突き合わせなければ本当は知ることができません。(このような手続きを「突合」といいます。)しかし、突合はとても手間と時間がかかりますし、しかも全件できるわけではありません。

ところが、「分析的実証手続」では、一定の仮説と比較的入手しやすい基本的な情報をもとに「あるべき金額」を一瞬で推定してしまいます。この「あるべき金額」と科目の金額の差異が許容範囲内であれば、科目の金額は正しいと判断します。

例えば、固定資産の減価償却費であれば、取得金額、償却方法(定額法、定率法など)、償却年数がわかれば、ほぼ正確に「あるべき金額」を推定することができます。もちろん、固定資産はたくさんあり、償却方法や償却年数もそれぞれ異なりますので、それらの属性が似たものをグループ分けしたうえで「あるべき金額」を推定します。

減価償却費以外でも、「分析的実証手続」は、人件費、支払利息、消費税、引当金(算定基準が明確に決まっているもの)、法人税等などに使用することができます。

「分析的実証手続」が使用できるとたいへん効率的に監査ができますし、なんだか自分が優秀であるかのような愉悦にひたることもできます。

しかし、「分析的実証手続」が使用できるのは、一定の知識と情報を用いて数学的手法を使って「あるべき金額」を推定できる場合のみです。つまり、ある程度の法則性がないとそもそも推定が成立しないので、「あるべき金額」を出すことができないのです。例えば、「広告宣伝費」などはそのときどきの販売状況で増やしたり減らしたりしますので、「あるべき金額」を出すことがとても困難です。

そのような場合は、初心にかえって(?)、原始証憑との突合をひたすらやるしかありません。

 

JIM ACCOUNTING
代表 公認会計士・税理士 児島泰洋

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