連結決算システムの運用

(※)以前公開したブログを再度アップさせていただきました。

連結決算システムの運用

 

名古屋の公認会計士・税理士の児島泰洋です。

企業はいまや単独で事業活動を行うだけでなく、グループ会社を通じてさまざまな国・地域で事業活動を行なっています。
企業はそれぞれが法人格をもっているため、決算もそれぞれが単独で行うことになります。これを「単独決算」といいます。

しかし、「単独決算」だけではグループ全体の事業活動の内容や結果がわかりません。それどころか、グループ会社の頂点にある会社(「親会社」といいます。)は、自らの損失を他のグループ会社(「子会社」といいます。)に付け替える(「飛ばし」といいます)などして、自社の決算内容を良く見せかけることもできます。

そのため、上場会社などでは、グループ全体を一つの会社と見なして決算を行うことになっています。これを「連結決算」と言います。(連結決算は1977年から導入されましたが、2000年3月期になるまでは単独決算が主体で、連結決算はその補足的な位置づけでした。)

連結決算は単独決算の結果をただ単に合算する(「単純合算」といいます。)だけでよいかというとそうではありません。なぜなら、グループ会社どうしでも取引(親会社から子会社への投資、グループ会社間での営業取引など)を行いますが、これらの取引はグループ全体からみれば「内部取引」にすぎません。そのため、グループ会社間取引を「相殺消去」しないと、損益計算書や貸借対照表がいたずらに膨らんでしまうのです。同じ会社の異なる部門どうしの商品の付け替えが売上や仕入にならないのと同じです。

例えば、「親会社」(P)が「子会社」(S)に商品100円を販売した場合、Pの単独決算では売上100円、Sの単独決算では仕入100円が計上されます。連結決算ではこの取引はなかったことになりますので、売上を100円、仕入を100円それぞれ減らす相殺消去を行います。

連結決算では相殺消去以外にもいくつかの調整処理を行いますが、これらを「連結調整」と言います。

グループ会社が数社程度であれば、この連結調整をExcelを使って手動で行うこともできるでしょう。しかし、グループ会社が数十社にもなってくるとExcelではとても追いつかなくなります。

そこでようやく「連結決算システム」が登場するわけです。このシステムはグループ会社の単独決算のデータの収集、単純合算、相殺消去その他諸々の連結調整を自動的に行ってくれます。さまざまなベンダーが「連結決算システム」を開発していますが、「Stravis」(電通国際情報サービス)、「Hyperion」(日本オラクル)、「DIVA」(ディーバ)などが有名です。

連結決算ではグループ会社どうしの取引を取り消すなどの処理だけでは十分ではありません。連結決算に含まれるグループ会社は原則として同じ会計基準・会計処理を採用していなければなりませんが、実際はそうとは限らないからです。例えば、「親会社」ではUSGAAP(米国会計基準)やIFRS(国際財務報告基準)を使っていて、「子会社」では日本基準などの現地国の会計基準を使っていることがあります。このような場合、「連結決算システム」は会計基準の違いまで調整することが求められます。しかも、会計基準は毎年新しく作られたり、修正されたりします。

したがって、「連結決算システム」も毎年プログラムを修正して会計基準の新設・修正に対応しなければなりません。(もちろん、手動で対応することもあります。)

プログラムの修正はシステムベンダーがやってくれますし、簡単なものであれば企業自身でできるでしょう。ところが、そもそもどのような修正が必要になるかまではシステムベンダーは分かりません。彼らは必ずしも会計の専門家ではありませんし、会社独自の調整もありますから、そこまでは対応できないのです。

したがって、企業の経理部が会計基準の改正などに応じて必要となる処理をまず「業務要件定義書」に落とし込まなければなりません。

「業務要件定義書」とは、「ある一定の条件に合致するときに、ある一定の処理を行う」という手順書のようなものです。また、その処理を行うために必要となる情報を指定し、処理の内容も数式などで指定します。

例えば、親会社の連結決算では子会社が期首に取得した機械装置(取得価額100、10年で10ずつ定額償却)を期末に9だけ減損(固定資産の帳簿価額を収益性の低下の事実などに応じて引き下げること)しているが、「子会社」では減損していないとします。このとき、子会社は翌年度も減損前の取得価額にもとづいて毎年10の減価償却費(=100➗10)を計上しますが、連結決算では9の減価償却費(連結決算上の簿価81➗9)だけすればよいので、減価償却費を1戻し入れなければなりません。

この場合、「業務要件定義書」のイメージは以下のようになります。

①子会社の機械装置の減価償却費10をいったん取り消す

(借方)減価償却累計額 10 / (貸方)減価償却費 10

②減損後の帳簿価額と残存償却年数で計算した減価償却費9を計上する

(借方)減価償却費 9 / (貸方)減価償却累計額 9

「業務要件定義書」はシステムのユーザー側(この場合は経理部)が作成するもので、これだけでは「連結決算システム」に上記の処理を行わせることはできません。そのため、システムベンダーは「業務要件定義書」をもとにして「システム要件定義書」を作成します。「システム要件定義書」ではシステム上のどのデータを使用するのか、どの勘定科目コードを使用するのか、どのような計算を行うのかを具体的に記述することになります。そして、「システム要件定義書」をもとにしてプログラムを作成し、システムに実装します。

ユーザーはさらにプログラムの処理結果を自分が行った処理結果と比較するなどして、正しい結果になっているかどうかを確かめなければなりません。これを「検収」といいます。システムベンダーが処理内容を誤って理解したり、誤ったプログラムを作成してしまうこともあるからです。

経理部は会計基準などが変わるたびに業務要件定義書をつくったり、プログラムを検収するなど、連結決算システムを長く運用していくためには、このようなしんどい作業をしなければならないのです。

私は以前、USGAAPを採用し、数百の子会社をもつ企業で連結決算をしていたことがありますが、連結決算システムを死ぬ思いで運用していました。今ではもっと楽になっているとは思いますが、懐かしい記憶です。

JIM ACCOUNTING(児島泰洋公認会計士・税理士事務所)
代表 児島泰洋
電話: 090-1811-5461
メール: yasuhiro.kojima@jimaccounting.com

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